奈良西大寺で幼子を拾った里人は、親と生き別れになったこの幼子を養育していました。里人はこの子を慰めるべく京都嵯峨野の清涼寺（せいりょうじ）の 大念仏に詣で門前の男に声をかけ、何か見せ物は無いかと尋ねます。男は、最近大念仏の場へ現れる「百萬」という狂女を呼び出そうと、面白おかしく念仏 を唱え始めます。その声に引かれて「まあ、何と無様な念仏でしょう」と現れた百萬は、代わりに念仏を唱えて舞い戯れます。
百萬は、わが子と生き別れになった悲しみから心乱れ、わが子との再会を祈って念仏を唱えているのだと明かします。そのとき、里人の連れていた幼子が、 突然「あれはお母さんだ」と、この百萬こそ自分の母なのではないかと気づきます。里人がそれとなく尋ねると、百萬はわが子を慕う自らの思いを述べ、 今の身となるに至った放浪のH々を謡い舞い、わが子との再会を祈って仏に舞を手向けます。
清涼寺には大勢の人々が集まっていますが、わが子の姿は見えません。百萬は仏に向かって「ああどうして我が子は姿を見せないのか」「あの子が恋しい、 どうか我が子をお返し下さい」と一心にわが子との再会を祈ります。その姿に、里人はついに幼子を引きあわせます。念願のわが子との再会に涙する百萬。 親子は仏法の功徳に感謝し、連れ立って奈良へ帰りました。

大酒のみの女房に嫌気のさした男は、女房が里帰りしているすきに、離縁状を送りつけました。男は新たな妻を求めて、五条の因幡堂へ妻乞いの祈願をかけに出かけます。離縁状を突き付けられた女房は烈火のごとく怒り、男を追いかけて因幡堂へ向かいますが…。

中国の清涼山（しょうりょうぜん)[現在の中国山西省]にある石橋付近で、中国・インドの仏跡を巡る旅を続ける寂昭法師（じゃくじょうほうし）は、ひとりの木こりの少年に出会います。そして橋の向こうは文殊菩薩の浄土であり、この橋は狭く長く深い谷に掛かり、人が容易に渡れるものではないことなどを教えられ、「しばらく待たれよ、日前に奇跡を観ることができるだろう」と告げられます。すると突然、橋の向こうから文殊の使いである白と赤の二頭の偉大な姿の獅子が現われます。香り高く咲き誇る牡丹の花に戯れ勇壮華麗な獅子舞を舞ったのち、もとの獅子の座、すなわち文殊菩薩の乗り物に戻ります。
今回は半能の形式で後半部分のみを上演します。